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レイモン・イブラヒムの「剣と半月刀」はイスラムと西欧の抗争史を語る


Quatorze siècles de guerre entre l’Islam et l’Occident – Passé- Présent n°310 – TVL
イスラムと西欧との14世紀にわたる戦闘

”剣と半月刀” L’epee et Le Cimeterre(Sword and Scimitar)
米国の言語学者でアラビア学の専門家レイモン・イブラヒム教授の著作。全米で人気の高い本の解説です。その際に抗争史の転換点となった8つの戦闘・出来事を分水嶺として使用して現在のイスラム攻勢に至る抗争史を描いています。
キリスト教世界とイスラムの長い敵対の歴史を連続したものとしてとらえた試みです。

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レイモン・イブラヒムの「剣と半月刀」が語るイスラムと西欧の14世紀に渡る抗争史

聖戦攻勢のイスラムと失地回復防戦のキリスト教

キリスト教には異教徒の改宗を目的とする聖戦(ジハード)の考えが、福音書などが編纂された教会史初期段階には存在していません。一方イスラムは、創始者マホメッドが政治軍事の指導者でもあった関係から聖典の中に聖戦という考えが組み込まれています。「死にたくなければ改宗しろ」と迫るイスラムの脅しは教義の上で正しいことなのです。一方キリスト教側には暴力による改宗強要は福音書には出てきません。抗争のきっかけは常にイスラムによる聖戦攻勢で、キリスト教側からの攻勢はあってもその目的は失地回復という防衛的なものです。十字軍がそうでした。エルサレムへの巡礼が妨害され、巡礼者保護のために派兵されたのがそもそもの十字軍でした。

転換点となった8つの戦闘は双方4勝4敗で五分です

イスラム勝利の4戦闘

#ヤルムック 7世紀:シリアの支配をめぐるイスラムとビザンチンの戦い。これ以降ビザンツ帝国はイスラムの脅威に常に晒されることとなりました。
#マンジギルト 1071年:中央アジア平原から進出したトルコがビザンツ帝国軍を破った。
#チムール帝国  13~14世紀:イラン、パキスタン、中央アジアを完全にイスラム化した。
#コンスタンチノープル陥落  1463年

西欧勝利の4戦闘

#コンスタンチノープル最初の籠城戦 7世紀:この結果ビザンツ帝国はバルカン半島のイスラム化を妨げることができるようになった。
#ポワチエ・ツールの戦い フランス 732年:シャルルマルテル(シャルル鉄槌王)率いるフランク族連合軍がピレネーを超えて来襲したイスラム軍を撃退、西欧のイスラム化を防いだ。
#レコンキスタ 1492年:イベリア半島に残った最後のイスラム教国グラナダ王国が消滅。
#ウイーン籠城戦の勝利 1683年:以降トルコ(オスマン帝国)の国力は衰退し、ヨーロッパの病人扱いされる迄に至った。

ポワチエ・ツールの戦い 732年

近年の教育左傾化に伴いこの戦闘の意義を矮小化する議論がさかんになりました。たしかにこの勝利は決定的なものではなかった。その後もピレネー山脈を超えてイスラム略奪軍が何度もフランスに攻め込んでいます。しかしイスラム軍がロワール川を超えてフランス北部に来襲することはなかった。また司令官シャルルマルテルの武名は大いに上がり、彼の子供ペパンは諸侯に推戴されそれまでのメロヴィンガ朝に代わるカロリンガ朝を創始します。その息子のシャルルがシャルルマーニュ(シャルル大帝)で、皇帝の称号を教皇より授けられました。ヨーロッパの誕生に際しシャルルマーニュの果たした意義は巨大であり、封建制度が根付いたのも彼の治世に於いてでした。
つまり732年ポワチエ・ツールの戦い勝利は封建ヨーロッパ誕生と結びついているわけです。

1683年ウイーン籠城戦の勝利

1463年のコンスタンチノープル陥落後バルカン半島はオスマン帝国の脅威に直接晒され続けます。地中海イスラム圏膨張抑止の西方ストッパーはフランス王国でしたが東方ではストッパーが失われてしまいました。オスマン帝国はこの勢いを借りてウイーン包囲戦を2度に渡り展開しますがいずれも失敗に終わり、ハプスブルク朝の影響力はバルカン半島に及ぶようになり、これが新しい東方のストッパーとなります。東西への膨張が封じられたイスラム圏は今度は海賊働きで地中海を荒らし回ります。
被害のひどさにたまりかねたフランスが海賊根拠地征伐の遠征軍をアルジェに送ったのが北アフリカのフランス植民史の始まりでした。人権や反植民地主義意識の高まりの中で非難されることの多い植民地経営ですが、少なくともイスラム圏植民については西欧側に海賊退治という名目がありました。船ゃ沿岸の集落を襲って人質を取り身代金をせしめたり、イスタンブールの奴隷市場に叩き売るなどしていたイスラムの奴隷商売は19世紀前半まで続きました。

現状だけを見てイスラムに肩入れするのではなく、本書のような長いタイムスパンで抗争史を俯瞰してみるのも大切です。
(終わり)

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